NHKの番組「ダーウィンが来た」で、ハリガネムシが種の繁栄のために寄生したカマキリをマインドコントロールする話がありました。
人類でさえ再現できない寄生虫のこのような生態は、他にどのようなものがあるのでしょうか?
また寄生は共生とどのように違うのでしょうか?
目次
カマキリを洗脳して自殺させるハリガネムシ
ハリガネムシは数センチから最終的には1メートル程度まで成長する、まさにハリガネのような寄生虫です。
水中で生まれた後、陸生の昆虫の体内に寄生して成長し、再び生殖のために水中に戻る生態がユニークなのです。
- 水中で孵化
- 水生昆虫(カゲロウ、ヤゴなど)が捕食
- 消化されない殻の中で休眠
- 宿主が陸に上がり羽化
- 宿主を陸生昆虫(カマキリ、コオロギなど)が捕食
- 新しい宿主の体内で休眠から目覚め成長
- 宿主を水中へ誘導
- 宿主が捕食される前に脱出
- 生殖、産卵
この中で、とりわけ不思議なのは7番の「宿主を水中へ誘導」です。
ハリガネムシは水中でしか生殖や産卵ができないため、タンパク質を分泌して陸生の宿主を洗脳し、入水自殺させるのだそうです。
そして宿主が誘導された通りに入水するやいなや、水生の生物に捕食される前に、急いで宿主の体外に脱出するわけです。
ハリガネムシは誰に教わることも無く、これら一連のオペレーションをやり遂げます。
どう説明されても納得が困難な生態です。
宿主の行動を操作する寄生生物の例
ハリガネムシの他にも、寄生した宿主の行動を操作する寄生生物の驚くべき例はいくつかあります。
ネズミの性格を大胆に変える
トキソプラズマという寄生虫は、寄生したネズミの緊張感と恐怖心を奪い、性格を大胆なものに変えてしまいます。
その目的は、宿主のネズミが猫に食べられやすくするためです。
トキソプラズマは身体の成長と共に、より寄生に適した宿主への引越しを画策するのです。
魚に激しく目立つ動きをさせる
吸虫の一種は魚の体内で成長しますが、繁殖は鳥の内臓でしかできないため、宿主の魚が鳥に捕食されるよう画策します。
魚の脳内で分泌した神経伝達物質により、魚は落ち着きなく激しく泳いだりジャンプしたり、鳥に目立つ行動をとるようになるのです。
アリを牧草の先端に移動させる
牛などの草食動物の内臓に生息する吸虫の一種は、卵の状態で排泄されカタツムリに捕食されます。
カタツムリの体内で孵化した吸虫は、粘液に包まれて吐き出されます。
この粘液がアリの好物であるため吸虫はアリの体内に入り、その後アリの脳を操作して牧草の先端に移動させるのです。
その目的は、牛の体内に戻るためです。
最初からずっと牛の体内にいたのでは、宿主が屠殺(とさつ)されたら繁殖が終わってしまいます。
リスクを冒してまで、種の広がりのために卵を牛の体外に排出しているわけです。
寄生と共生は何が違うのか
「寄生」に似た言葉に「共生」があります。
共生は、異なる生物が関係性を持ちながら共に生活・生存することです。
関係が双方に利益をもたらす場合(双利共生)と、片方にしか利益をもたらさない場合(片利共生)がありますが、後者の利益を享受しない側にとっても、少なくとも被害は受けないことが原則です。
これに対して、寄生は一方が他方(宿主)の体表に張りついたり体内に入り込んだりして、不利益を加えることによって生存することを言います。
不利益の多くは宿主の養分を奪われる類いですが、上述のとおり宿主の行動までコントロールされてしまう場合もあるということです。
まとめ
「気持ち悪い」という第一印象で片付けるのは簡単ですが、それだけではもったいない気がします。
これらの不思議なメカニズムは、物質レベルで解明されたからと言って、どのようにして確立されたかの説明にはなりません。
できるならば、気の遠くなるような年月を早回しにして、生態を獲得してきた過程を観察してみたいものです。
以上、カマキリに寄生するハリガネムシの生態に関連した話題でした。