2021年の夏と2022年にかけての冬、電力不足は深刻と言われていましたが、幸いにも表立って危機的な状況にはならず、不自由なく電力を利用することが出来ました。
しかし冬を無事に切り抜けたと思ったら、3月22日に突然「電力ひっ迫警報」が発令され肝を冷やしました。
実際のところ、日本の電力事情はどんな様子なのでしょう。
この夏や冬の電力使用ピーク時に、果たして計画停電や電力使用制限令はあるのでしょうか。
3月22日の「電力ひっ迫警報」は何だったのか
3月22日の午前10時以降、東京電力と東北電力はデータ上の電力使用量が供給量をオーバーしました。
この時期、本来であれば冬の電力不足のピークは過ぎているはずでした。
しかし東北地方の大きな地震で火力発電所が停止や出力低下中だったことと、季節外れの寒波により電力消費量が増大したことが運悪く重なってしまいました。
電力量に余裕がある時間帯に汲み上げておいた水を使った揚水式発電で急場をしのぎましたが、夜には電力ひっ迫警報が出され国民に節電を呼び掛けることになりました。
幸にも大規模停電に至ることは無く、翌日には天候が回復したため電力ひっ迫警報は解除されました。
この日の電力危機については、不測の事態に備えて設備増強をしておくべきだったという批判の声がありました。
しかし2つの事象が重なるのはごく稀な事態であり、これに備えて設備投資をすれば、当然電気料金に跳ね返ってきます。
国民の協力によって回避できるのであれば、やむを得ないことなのではないでしょうか。
春や秋はエアコンの出力を弱めても生命の危険は少ないため、一般家庭への節電を比較的頼みやすい時期です。
改善の余地があるとすれば、今回21時に発令された電力ひっ迫警報をもっと前倒しにすることでしょう。
当面は夏も冬も慢性的な電力不足に
日本の電力不足は、少なくとも2030年頃まで慢性的に続く恐れがあります。
なぜそうなるのか、という話です。
2011年の東日本大震災までは、原子力発電を拡充していって火力発電は縮小傾向に、というのが既定路線でした。
従って火力発電施設をリニューアルするのは無駄な投資とみなされ、老朽化対応は後回しになりました。
東日本大震災の後には事情が変わりまして、原子力発電がトーンダウンした一方で、脱炭素化の流れで再生エネルギーへの投資が盛んになります。
火力発電所の老朽化対応はやはり無駄なことと捉えられて、後回しになりました。
多くの火力発電所は長い間リニューアルされず騙しだまし稼働してきたため、発電効率が悪く稼ぎにならない設備になっていきました。
このように、収支が合わないため火力発電所の休廃止が相次いでいるのが、昨今の電力不足の大きな理由です。
また、東日本大震災により停止した原子力発電所の再稼働が遅れているのも電力不足に拍車をかけています。
国内の原発33基のうち、東日本大震災後に一時的にでも稼働したのは10基しかなく、その全てが西日本に偏っています。
周波数の異なる東西間の電力の融通は、以前より技術的なハードルは下がってはいますが、それでも自由に送電し合える状況にはありません。
地球に優しいという触れ込みの再生エネルギーの供給量は天任せです。
再生エネルギーの割合が高まるほど、その不安定な電力供給量を補う調整役の発電施設が不可欠になってきます。
電力量を小刻みに調整できる使い勝手で言えば、火力発電に勝るものはありません。
しかしその火力発電所が老朽化により減ってきているのです。
仮に今建設のゴーサインが出たとしても運転開始まで10年近くかかるでしょう。
それゆえ、少なくとも2030年頃までは慢性的に電力不足が継続するとみられるのです。
計画停電はあるのか
2022年4月に資源エネルギー庁が発表したシミュレーションによると、今年の夏と冬の電力需給は、この10年間で最も厳しい見通しとなっています(資源エネルギー庁:2022年度の電力需給対策について)。
夏の電力予備率は東北・東京・中部で必要最低限の3%をぎりぎり上回る程度であり、ここに3月22日のような不測の事態が重なれば、予断を許さない状況になります。
しかしもっと厳しいのは冬の方で、中部・北陸・関西・中国・四国・九州の6エリアで予備率は2%台となり、東京に至っては1月と2月にマイナス1%台と供給が足りなくなる予想なのです。
それまでに間に合いそうな新戦力としては、福島・横須賀・姉崎に稼働準備中の火力発電所が合計4基ありますが、いずれも試験運転中であり稼働が間に合う確証はありません。
あとは非常時の揚水式発電でどこまでしのげるか、ということになります。
供給が厳しいとなると、節電の施策が必要になってきます。
考えられるのは計画停電です。
計画停電といえば、2011年の東日本大震災の直後に東京電力が首都圏で実施したのを覚えている人も多いでしょう。
その時は、地域ごとに輪番制で3時間程度ずつ電気の供給を止めるという計画停電を2週間ほど実施しました。
同年夏も実施が計画されていましたが、後述する電力使用制限令は発令されたものの、計画停電は回避されました。
経産省は原則として計画停電は実施しないとしながらも、万一に備えて計画停電の手順を確認しておく方針とのことです。
電力使用制限令とは
電力使用制限令は、電力不足の際には電気事業法に基づき、経済産業大臣が国民に電力の使用を制限することができるというものです。
対象は大口需要家ですので、多くは法人とみられます。
電気事業法には罰則が定められていまして、電力使用制限に違反した場合には「100万円以下の罰金」に処せられるのです。
基本的にはお願いである節電要請や計画停電等とは違って、刑事罰が下るとなると重みが違いますね。
過去には1974年のオイルショックの際と、2011年の東日本大震災の際に発令された実績があります。
2011年は真夏の平日50日間に東京電力と東北電力の管内で実施され、大口契約者に前年比15%減を強制しました(小口契約者には強制力のない節電要請)。
経産省は「極力回避することが望ましい」としていますが、最後の手段として発令される可能性はあります。
まとめ
各人が他人事ではなく節電意識を持つことは重要です。
しかしエアコンの使用を控えるとなると、特にお年寄りや病人には命の危険すら生じます。
節電はあくまで体調と相談しながら、冷暖房を止めるのではなく無理のない範囲で温度調節を行なうようにしましょう。
以上、国内の電力事情についての話題でした。